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生成AIで有名人の声や顔に似せたコンテンツを作ってよいか

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Masayuki Tani

結論:問われるのは、その人の人気を「専ら」利用しているか

生成AIで実在の人に似せた声や顔を作り、公開すること自体が、直ちに違法になるわけではありません。

もっとも、似せた声や顔がその人のものだと受け取られ、その人の人気を売り物にする使い方をすれば、パブリシティ権の侵害となりえます。日本の裁判所は、パブリシティ権の侵害を「専ら肖像等の有する顧客吸引力の利用を目的とする」場合に認めています。顧客吸引力とは、商品の販売などを促す力のことです。

この基準は、声にも当てはまります。法務省の検討会が2026年8月に公表した解釈指針は、人の声もパブリシティ権の保護の対象になると明記しました。東京地方裁判所も、2026年9月30日の判決で同じ考え方を示しています。

解釈指針とは何か

法律ではなく、判例の考え方の整理

法務省は2026年4月から7月にかけて、「肖像、声等の無断利用による民事責任の在り方に関する検討会」を5回開きました。座長は田村善之・東京大学教授で、法学者と弁護士が委員を務め、事務局は法務省民事局です。その取りまとめ報告書「生成AIによるパブリシティ権侵害等に関する解釈指針」が、2026年8月7日に公表されました。

この報告書は、新しい法律ではありません。パブリシティ権と、肖像等をみだりに利用されない権利(肖像権など)は、法律に明文の規定がなく、判例によって形成されてきた権利です。報告書によれば、生成AIによる無断利用については裁判例もなく、どこから権利侵害になるのかが不明確だという指摘がありました。そこで、これまでの裁判例と学説を踏まえて、現行の考え方を生成AIの事例にどう当てはめるかを整理しています。

報告書は、その目的を、肖像や声に関わるビジネスの関係者、法曹関係者、生成AIを開発・提供・利用する人に広く活用され、民事責任についての予測可能性が高まることだと説明しています。

扱っている規律は3つ

報告書が扱うのは、2つの権利と1つの法律です。

  • パブリシティ権:肖像等の商業的な価値を守る権利。侵害されると、主に使用料に相当する額などの財産的な損害の賠償が問題になります
  • 肖像等をみだりに利用されない権利:肖像等の精神的な価値を守る権利。侵害されると、原則として慰謝料の問題になります
  • 不正競争防止法:肖像や声の無断利用が不正競争にあたる場合の規律。報告書は、周知・著名な商品等表示の冒用(2条1項1号・2号)のほか、誤認惹起行為(同項20号)と信用毀損行為(同項21号)も検討しています

同じ行為について、パブリシティ権の侵害と肖像権などの侵害の両方が成立することもあります。本稿では、主にパブリシティ権を扱います。

判断の基準

ピンク・レディー事件の3類型

基準の出発点は、最高裁判所の平成24年2月2日判決(ピンク・レディー事件)です。この判決は、肖像等を無断で使用する行為が、次のような場合にパブリシティ権の侵害として違法になるとしました。

  1. 肖像等それ自体を独立して鑑賞の対象となる商品等として使用する場合(ブロマイド、ポスター、グラビアなど)
  2. 商品等の差別化を図る目的で肖像等を商品等に付す場合(肖像を印刷したTシャツやマグカップなど)
  3. 肖像等を商品等の広告として使用する場合(テレビやウェブサイトの広告など)

判決は、これらを「など」と例示しています。報告書は、3類型に当たらなくても、これらに準ずる程度に専ら顧客吸引力の利用を目的とする場合には侵害が成立するとしています。

反対に、報道、論評、創作物などで肖像等が使われる場合には、本人が受け入れるべきときもあります。ピンク・レディー事件でも、ダイエット法を紹介する雑誌記事に写真を載せた行為は、記事の内容を補足する目的だったとして、侵害は否定されました。

声も保護の対象になる

ピンク・レディー事件の判決が保護の対象として挙げたのは「氏名、肖像等」でした。報告書は、人の声も、ある人物を他の人物と見分ける情報であり、個人の人格の象徴となるものだとして、この「等」に含まれると整理しています。

特定のキャラクターを演じる声優の声それ自体に商品の販売などを促す力があれば、その声に顧客吸引力が認められる、とも述べています。

「似せた」声や顔は、本人のものか

生成AIが作る声や顔は、通常、本人と完全には同じではなく、似ているにとどまります。そこで、それが本人の声や肖像を「使用」したといえるかが問題になります。

報告書は、利用者や視聴者がそれを本人のものだと見分けられるかで判断するとしています。その際には、次の2つを総合的に考慮します。

  • 声や顔そのものがどれだけ似ているか(声であれば、声質や歌い方の特徴)
  • 本人を思わせる情報が添えられているか(動画の説明、公開された文脈など)

たとえば「AI歌手Xに〇〇の曲を歌わせてみた」「(声優Xが演じる)キャラクターCに〇〇の曲を歌わせてみた」といった表示は、声の類似性とあいまって、本人の声を使用したと評価される方向に働くとされています。

なお、報告書は、声は氏名や肖像に比べると、誰のものか見分けにくい面があるとも指摘しています。

場面ごとの考え方

報告書は、生成AIを使った想定事例を7つ検討しています。そのうち、実務でよく問題になりそうなものを紹介します。

AIカバーの動画で収益を得る

歌手や声優の声に似せた歌声をAIで作り、SNSに公開して広告収入などを得た場合、その音源は「商品等」に当たります。歌声が視聴者に本人の声だと受け取られるなら、視聴者は本人の歌声を聞くことを主な目的として聞くことになります。そこで報告書は、声それ自体を独立して鑑賞の対象とする商品として使った(第1類型)と評価でき、立場によっては、他の歌い手の音源と差別化する目的で使った(第2類型)とも評価できると整理しました。

俳優の顔に似せた人物がアクションシーンを演じる動画で収益を得る事例も、同じ枠組みです。動画がその場面だけでできていれば第1類型と評価できます。それ以外の表現が加えられていれば、その表現が独立した意義を持つかどうかなどによって、評価が変わりえます。

パロディーのように、鑑賞の中心が肖像等そのものではなく、新たに加えられた笑いなどにある場合は、パブリシティ権の侵害に当たりません。

ナレーションや広告に使う

想定事例とは別に、報告書は第1章で、声の無断利用がパブリシティ権侵害となる例を挙げています。ボイスメッセージ、オーディオブック、AIカバー、ナレーション、カーナビゲーション、スマートスピーカー、広告のナレーションなどです。広告のナレーションに使うことは第3類型(広告としての使用)の具体例とされ、SNSなどでの有名人のなりすまし広告も、その人の声や、その人の声と識別できる音声を使っていれば第3類型に当たるとされています。

一方で、物まねや声まねは、本人を示すものと誤解されるような場合でない限り、パブリシティ権を侵害しないとされています。

収益を目的とせずに投稿する

収益を得る目的がなく、SNSに投稿しただけであれば、その動画や音源は「商品等」には当たりません。ただし、フォロワー数や閲覧数を稼ぐ意図で投稿し、多くの再生数を得て、本人に営業上の不利益を現に生じさせた場合は、3類型に準ずるものと評価しうるとされています。

また、パブリシティ権とは別に、肖像等をみだりに利用されない権利の問題が残ります。本人が演じたことのない場面や、歌ったことのない歌が、本物のように再現されて流通することは、自分の肖像を他人の管理下に置かれたくないという利益や、自己像の同一性に対する利益を害する可能性がある、と報告書は述べています。

性的なコンテンツに使う

本人の声や顔に似せた性的な画像や音源の公開は、肖像権や声をみだりに利用されない権利を侵害すると評価される可能性が高い、というのが報告書の見方です。本人が有名人でなく一般人であっても、侵害の有無に大きな差が生じる可能性は低いとされています。

AIを作る・売る側の責任

報告書は補論として、生成AIのモデルやサービスを提供する側の責任も検討しています。

モデルやサービスの提供

一般論としては、生成AIのモデルやサービスそれ自体は「肖像等」ではないので、その提供が3類型に直接当たるとはいえないのが原則です。

もっとも、実在の著名人と同じか、よく似た肖像や声を簡単に生成できることをセールスポイントにして、有償で提供する場合は別です。報告書は、このような提供は3類型に準ずる行為としてパブリシティ権を侵害すると考えられ、提供が続いていれば差止めを求めることができるとしています。

利用者の侵害への関与

利用者が生成AIで作ったコンテンツを公開して権利を侵害した場合、責任を負うのはまずその利用者です。ただし、生成AIを提供した事業者も、侵害の発生に寄与したと評価されるときは、共同不法行為として連帯して賠償責任を負う可能性があります。

その判断では、提供によって生じる侵害の蓋然性や重大性、事業者が侵害の発生を認識できたかどうかなどが考慮されます。侵害の可能性を下げる措置がとられていれば、提供の時点で、利用者が侵害をする蓋然性があるとは直ちにはいえないと評価される可能性が高い、と報告書は述べています。

学習用データセットの販売と学習そのもの

特定の俳優や声優に特化した学習用データセットを販売することは、第1類型に当たるか、これに近いものとして侵害となりえます。そのデータセットで特定の人を学習できると宣伝すれば、第3類型に当たりえます。多数の人のデータを含むデータセットでも、特定の俳優や声優が含まれていることを明らかにして売れば、第2類型に当たりえます。

一方、特定の人の肖像や声を学習させる行為そのものが侵害になるかについては、検討会の中で意見が分かれました。

東京地裁 令和8年9月30日判決

事案

解釈指針の公表から約2か月後、東京地方裁判所が、生成AIによるとみられる声の模倣について判決を言い渡しました(令和7年(ワ)第70635号)。

原告は声優です。被告は、動画投稿サイト TikTok を運営するシンガポール法人の TikTok Pte. Ltd. です。氏名不詳の投稿者が、2024年7月から2025年9月までに188件の動画を投稿していました。いずれも、都市伝説や雑学のナレーションを映像と字幕に組み合わせたものです。原告は、そのナレーションの声が自分の声に似ているとして、不正競争防止法とパブリシティ権に基づき、動画の削除を求めました。

投稿者は外部サイトで、原告の声を無断でAIに学習させたのではなく、声真似の上手な友人の声を学習させたものだと説明していました。一方、動画のコメント欄には、原告の声に似ているという投稿が見られました。

判決が述べたこと

判決は、人の声は、人の肖像と同様に個人の人格の象徴であるということができるとしました。そのうえで、たとえば実演家の声などを無断で使用する行為は、その声に顧客吸引力があり、専らその顧客吸引力の利用を目的とするといえるときは、パブリシティ権の侵害に当たると解するのが相当だと述べました。

結論は請求棄却

もっとも、結論は請求棄却でした。投稿者が2026年5月29日にアカウントを削除し、30日以内に復旧を申請しなかったため、動画のデータは同年6月28日の経過をもって被告のサーバーから削除されたと認定されました。削除の対象がすでにない以上、さらに削除する義務はないという理由です。

判決は、それ以外の争点については判断しないとしました。そのため、この動画のナレーションが原告の声を使用したものといえるか、パブリシティ権や不正競争防止法に違反するか、動画が残っていた間にプラットフォームの運営者に削除義務が生じていたかについては、結論が示されていません。

解釈指針も、差止めは、現に続いている侵害を止めるため、または将来の侵害を予防するために必要な場合に認められると整理しています。侵害行為がすでに止まっていて、将来侵害するおそれが乏しい事情があれば、必要性は否定される傾向にあるとしています。

名前をタイトルに入れるだけなら

生成AIに限らず、SNSの動画で人の名前を使う場面についても、最近の東京地裁の判決があります。

令和8年3月25日の判決(令和6年(ワ)第70555号)では、YouTuber のグループ名を、そのグループを話題にした動画のタイトルやハッシュタグに付けた行為が問題になりました。判決は、グループ名に一定の顧客吸引力があることは認めました。そのうえで、タイトルは動画の内容を簡潔に表すもの、ハッシュタグは分類や検索を容易にするものであり、話題にした動画にグループ名を付けるのはその目的に沿うとして、専ら顧客吸引力の利用を目的とするものとはいえないと判断しました。パブリシティ権の侵害を理由とする請求と、グループ名の使用の差止めは認められませんでした(判決は、動画内の一部の発言について、名誉毀損などを理由に賠償を命じています)。

まだ決まっていないこと

報告書は、まだ見解が一致していない論点があることも認めています。たとえば、本人ではなく所属事務所などが損害賠償や差止めを求められるかについては、見解が一致しませんでした。

また、2026年6月の知的財産推進計画2026は、俳優や声優などの声を模倣した音声コンテンツについて、ガイドラインなどを作るとともに、不正競争防止法の改正を含むハードロー整備の必要性も含めて議論を続けるとしています。

慎重な検討が必要な場面

次のような場面では、公開や提供の前に法的な確認を慎重に行うことをおすすめします。

  • 実在の人に似せた声や顔を、広告やプロモーションに使う
  • AIカバーや、本人に似せた声のナレーションを使った動画で、広告収入などの収益を得る
  • 「〇〇の声」「〇〇風」など、本人を思わせる名前や表示を添える
  • 特定の人の声や顔を生成しやすいことを売りにして、生成AIのモデル、サービス、学習用データセットを提供する
  • 自社のサービスで、利用者が実在の人に似せたコンテンツを作れる。どの程度の対策をとれば足りるかを検討したい

反対に、自分の声や顔に似せたコンテンツが出回り、削除や賠償を求めたい場合は、その方法などについて法的な検討が必要です。

おわりに

判断の中心は、似せた声や顔が本人のものと受け取られるか、そして本人の人気を専ら利用する使い方か、の2点です。一方で、報告書の作成時点では生成AIによる無断利用の裁判例はなく、2026年9月30日の判決も、侵害の有無までは判断していません。

本稿は一般的な情報の提供を目的とするもので、個別の事案についての法的助言ではありません。個別のご相談は、お問い合わせからどうぞ。

参考資料

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